Red cat の数学よもやま話・新装開店

はてなダイアリー「Red cat の数学よもやま話」から徐々にこちらに移行していきます。

楽しい圏論(その 18・最終回?)

最後に参考書を紹介するのを忘れていました。

圏論の基本的なところはこちら(下は和訳本)。

圏論の基礎

圏論の基礎

層・トポスと直観主義論理への入り口みたいな本。

層・圏・トポス―現代的集合像を求めて

層・圏・トポス―現代的集合像を求めて

より本格的にはこちらも。

Sheaves in Geometry and Logic: A First Introduction to Topos Theory

Sheaves in Geometry and Logic: A First Introduction to Topos Theory

アーベル圏について。かなり古いため入手は困難。

Abelian Categories

Abelian Categories

形式的圏論(Formal category theory)について。入手は出来るが初版は 1974 年とかなり古い。

Formal Category Theory : Adjointness for 2-Categories (Lecture Notes in Mathematics)

Formal Category Theory : Adjointness for 2-Categories (Lecture Notes in Mathematics)

楽しい圏論(その 17)

圏同型と圏同値

二つの圏 {C}{D} について, 函手 {F : C\to D}{G : D\to C}{GF = 1_C, FG = 1_D} となるものがあるとき {C}{D}圏同型であると言いますが, 圏同型はかなり強い条件です. そこで, これを少しゆるめて
{GF\cong 1_C : C\to C, FG\cong 1_D : D\to D}
となるような自然同型があるとき, {C}{D}圏同値であると言います.

条件を緩めることは圏論では重要で, 例えば bicategory(双圏, weak 2-category)と (strict) 2-category は本質的に違うものですが, biequivalence という概念を使うと両者を「だいたい」同じものとみなせるのです. biequivalence の定義の中に圏同値が現れるのですがここを圏同型にすることはできません. 条件を緩めることで初めてこの有益な情報は得られるのです.

ただ, それを詳しく書くと(ある程度の予備知識があったとしても) 60 ページほどの PDF になってしまいますのでここでは割愛します.

普遍自然変換

最後のおまけ(?)に普遍自然変換の話を. {\mathbf{2}} は二つの対象 {0 , 1} と恒等射 {\mathrm{id}_0, \mathrm{id}_1} と恒等射でないただ一つの射 {\downarrow : 0\to 1} をもつ圏です.

{C} に対して特別な函手 {T_0, T_1 : C\to C\times\mathbf{2}}
{T_i c := \langle c, i\rangle, T_i f := \langle f, \mathrm{id}_i\rangle : \langle c, i\rangle\to \langle c', i\rangle(i = 0, 1, f : c\to c')}
と定義します. このとき自然変換 {\mu : T_0\stackrel{\bullet}{\to} T_1}
{\mu_c := \langle\mathrm{id}_c, \downarrow\rangle : \langle c, 0\rangle\to \langle c, 1\rangle}
で作ることができます.

任意の函手 {S, T : C\to D} と自然変換 {\tau : S\stackrel{\bullet}{\to} T} に対して双函手 {F : C\times\mathbf{2}\to D}{F\star\mu = \tau} となるものがただ一つ存在します. このような {F}
{F\langle c, 0\rangle = Sc, F\langle c, 1\rangle = Tc,}
{F\langle f, \mathrm{id}_0\rangle = Sf, F\langle f, \mathrm{id}_1\rangle = Tf, F\langle f, \downarrow\rangle = Tf\circ\tau_c = \tau_{c'}\circ Sf}
で与えられます.

楽しい圏論(その 16)

対象間の射と自然変換の関係

{C} の対象は函手 {x : \mathbf{1}\to C} とみなせますが, このとき {x : \mathbf{1}\to C} から {y : \mathbf{1}\to C} への自然変換とは, 射 {f : x\to y} のことに他なりません.

以前, 自然変換の水平合成を定義していましたね.
mathneko.hatenablog.com

これによれば, 函手 {F : C\to D} から {G : C\to D} への自然変換 {\tau : F\stackrel{\bullet}{\to} G} における {\tau_x : Fx\to Gx}{\tau_x = \tau\star x} と書くこともできます.

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自然同型と逆変換

函手 {F : C\to D} から {G : C\to D} への自然変換 {\tau : F\stackrel{\bullet}{\to} G} が自然同型であるとは各 {\tau_x = \tau\star x : Fx\to Gx} が({D} の対象間の射として)同型射であることと定義されますが, このとき {\tau^{-1}\star x := (\tau\star x)^{-1}} と定義することで自然変換 {\tau^{-1} : G\stackrel{\bullet}{\to} F} が得られます. このとき明らかに {\tau^{-1}\circ\tau = 1_F, \tau\circ\tau^{-1} = 1_G} となっています.

楽しい圏論(その 15)

最後に参考文献を挙げて終わりにしようかと思ったのですが、もう少し書きます。

米田の補題を使うと, 自然同型 {C(x, c)\cong C(x, c')} があれば対象としての同型 {c\cong c'} があることがわかるのですが、それを少し詳しく(米田の補題を使わずに)書きます.

そもそも自然同型 {C(x, c)\cong C(x, c')} とは各 {x} に対する(集合間の射としての)同型射 {\tau_x : C(x, c)\cong C(x, c')} であって, 射 {\varphi : y\to x} があるとき次図が可換になるものです.
{\require{AMScd}
\begin{CD}
C(x, c) @>{\tau_x}>> C(x, c') \\
@V{C(\varphi, c)}VV \circlearrowleft @VV{C(\varphi, c')}V \\
C(y, c) @>>{\tau_y}> C(y, c')
\end{CD}}
ここで {C(\varphi, c) : C(x, c)\ni\psi \mapsto \psi\circ\varphi \in C(y, c).}

{f := \tau_c(1_c)\in C(c, c'), g := (\tau_{c'})^{-1}(1_{c'})\in C(c', c)} と置きましょう. このとき可換図式
{\begin{CD}
C(c', c) @>{\tau_{c'}}>> C(c', c') \\
@V{C(f, c)}VV \circlearrowleft @VV{C(f, c')}V \\
C(c, c) @>>{\tau_c}> C(c, c')
\end{CD}}
において
{\begin{align}
C(f, c')\circ \tau_{c'}(g)
 &= C(f, c')(1_{c'}) \\
 &= f \\
 &= \tau_c (1_c), \\
\tau_c\circ C(f, c)(g)
 &= \tau_c (g\circ f)
\end{align}}
から {\tau_c (g\circ f) = \tau_c (1_c)} を得ます. {\tau_c} は同型なので {g\circ f = 1_c.}

また可換図式
{\begin{CD}
C(c, c) @>{\tau_c}>> C(c, c') \\
@V{C(g, c)}VV \circlearrowleft @VV{C(g, c')}V \\
C(c', c) @>>{\tau_{c'}}> C(c', c')
\end{CD}}
において
{\begin{align}
C(g, c')\circ \tau_c (1_c)
 &= C(g, c')(f) \\
 &= f\circ g, \\
 &= \tau_c (1_c) \\
\tau_{c'}\circ C(g, c)(1_c)
 &= \tau_{c'} (g) \\
 &= 1_{c'}
\end{align}}
から {f\circ g = 1_{c'}.}

従って {f : c\stackrel{\cong}{\longrightarrow} c'} となります.

楽しい圏論(その 14)

トポスの定義

{C}デカルト閉圏(cartesian closed category, CCC) であるとは, 以下の三つの函手が特定の右随伴を持つことを言います.

  • {C\to\mathbf{1} = C^{\mathbf{0}}, c\mapsto 0}
  • {C\to C\times C, c\mapsto\langle c, c\rangle}
  • {C\to C, c\mapsto c\times b\quad (b\in\mathcal{O}(C))}

これらの右随伴は

  • {\mathbf{1}\to C, 0\mapsto 1} ({1} は終対象)
  • {C\times C\to C, \langle a, b\rangle\mapsto a\times b}
  • {C\to C, c\mapsto c^b\quad (b\in\mathcal{O}(C))}

なので, CCC とは「終対象と(有限)積と冪が存在する圏」と言い換えることができます.

{C}トポス(topos)であるとは, {C} が CCC で, かつ以下の性質を満たす部分対象分類子(subobject classifier) {t : 1\to\mathit{\Omega}} が存在することを言います.

任意の単射 {m : A'\to A} に対して, 次図が引き戻しとなるような射 {\varphi : A\to\mathit{\Omega}} が一意に存在する.

例えば {\mathrm{Set}}{t : 1 = \{ 0 \} \hookrightarrow \{0, 1\} = \mathit{\Omega}} とするとトポスになります.

層の定義

位相空間 {X} の開集合の全体 {\mathcal{O}(X)} は包含関係を順序として, 順序集合という意味で圏とみなせます. 函手 {F : \mathcal{O}(X)^\mathrm{op}\to\mathbf{Set}}前層(presheaf) と言います.

{X} の開集合 {U, V} に対して {V\subset U} のとき, これに対応する {\mathcal{O}(X)^\mathrm{op}} でのただ一つの射 {U\to V} に対して前層 {F} が定める {FU} から {FV} への(集合間の)写像が決まりますが, この写像による {t\in FU} の像を {t|_V} と表すことにします.

{U = \bigcup U_i} のとき
{p : \prod_i FU_i\to\prod_{i, j}F(U_i\cap U_j), q : \prod_j FU_j\to\prod_{i, j}F(U_i\cap U_j)}

{p\langle t_i\rangle = \langle t_i|_{U_i\cap U_j}\rangle, q\langle t_j\rangle = \langle t_j|_{U_i\cap U_j}\rangle\quad (t_i\in FU_i)}
で定め, {e : FU\to\prod_i FU_i}{e(t) = \langle t|_{U_i}\rangle} で定めます.

前層 {F}(sheaf)であるとは, 次図がイコライザの図式であることを言います.

トポスも層も直観主義論理と深い関係がありますが, その話は次回紹介する参考書などを読んでいただくことにいたしましょう.

楽しい圏論(その 13)

極限は対角函手の右随伴である

{F : J\to C} の極限を {\varprojlim F} で表します. これは対角函手 {\Delta : C\to C^J} から {C^J} の対象である {F} への普遍射でした. 従って全ての {F : J\to C} に対して極限が存在するならば函手 {\varprojlim : C^J\to C}{\Delta} の右随伴です.

双対的に全ての {F : J\to C} に対して余極限 {\varinjlim F} が存在すれば {\varinjlim : C^J\to C}{\Delta} の左随伴です. つまり
{\varinjlim\dashv\Delta\dashv\varprojlim}
という関係が成り立っています.

右随伴は極限を保つ

{F : J\to C}{C} の対象 {c} に対して函手 {C(c, F(-)) : J\to\mathbf{Set}} の極限を {\varprojlim C(c, F)} と表すことにします.

{\Delta c} から {F : J\to C} への自然変換全体 {\mathrm{Nat}(\Delta c, F)} は頂点 {c} から底 {F} へのとも言われ {\mathrm{Cone}(c, F)} とも表記されますが, {\varprojlim F} が存在すれば自然同型
{\mathrm{Cone}(c, F) = \mathrm{Nat}(\Delta c, F)\cong C(c, \varprojlim F)}
が成り立ちます. 一方で一点からなる集合 {\ast} を用いて
{\mathrm{Cone}(c, F) = \mathrm{Cone}(\ast, C(c, F(-)))}
が成り立ちます.

{\mathbf{Set}} の完備性(このことについては詳細は割愛します)から
{\begin{align}
 \mathbf{Set}(x, \varprojlim C(c, F))
  &\cong \mathrm{Cone}(x, C(c, F(-))) \\
  &\cong \mathbf{Set}(x, \mathrm{Cone}(\ast, C(c, F(-)))) \\
  &=       \mathbf{Set}(x, \mathrm{Cone}(c, F)) \\
  &\cong \mathbf{Set}(x, C(c, \varprojlim F)),
\end{align}}
すなわち {C(c, \varprojlim F)\cong \varprojlim C(c, F)} が成り立ちます.

これを使うと, {U : C\to D} がある函手 {G : D\to C} の右随伴ならば
{\begin{align}
 D(d, U(\varprojlim F))
  &\cong C(Gd, \varprojlim F) \\
  &\cong \varprojlim C(Gd, F) \\
  &\cong \varprojlim D(d, UF) \\
  &\cong D(d, \varprojlim UF)
\end{align}}
となるため, {U} は極限を保つことが分かります.

冪と極限

{C} は積を持つ圏とします. このとき任意の対象 {b} に対して函手 {(-)\times b : C\to C} が右随伴を持つとき, これを {(-)^b : C\to C} と書いて, {c^b}冪対象と言います.

つまり冪は右随伴なので極限を保ち, 例えば極限の特別な場合として積を考えれば {(c_1\times c_2)^b = {c_1}^b\times{c_2}^b,} 終対象 {1} を考えれば {1^b = 1} などが成り立っています.

楽しい圏論(その 12)

伏線回収回.

圏の積

「圏の積については後ほど一般的に定義します」と予告していましたので, ここで定義しておきます.

「全ての圏からなる圏」というものを考えることができます. 二つの圏 {C_1, C_2} の積とは, {C_1, C_2} をこの「全ての圏からなる圏」の対象と見たときの積です. このとき圏 {C} の対象 {c} および射 {f} は函手 {c : \mathbf{1}\to C, f : \mathbf{2}\to C} とみなすことができたのを思い出せば, 積の可換図式から {C_1\times C_2} の対象や射がいかなるものか見えてくると思います.


表現可能函手

函手 {F : C\to\mathbf{Set}} について {F\cong C(c,-)} となる対象 {c} があるとき {F}表現可能であると言います. このような対象 {c} (表現対象と言います)は同型を除いて一意であることは米田の補題からわかります.

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