Red cat の数学よもやま話・新装開店

はてなダイアリー「Red cat の数学よもやま話」から徐々にこちらに移行していきます。

楽しい圏論(その 14)

トポスの定義

{C}デカルト閉圏(cartesian closed category, CCC) であるとは, 以下の三つの函手が特定の右随伴を持つことを言います.

  • {C\to\mathbf{1} = C^{\mathbf{0}}, c\mapsto 0}
  • {C\to C\times C, c\mapsto\langle c, c\rangle}
  • {C\to C, c\mapsto c\times b\quad (b\in\mathcal{O}(C))}

これらの右随伴は

  • {\mathbf{1}\to C, 0\mapsto 1} ({1} は終対象)
  • {C\times C\to C, \langle a, b\rangle\mapsto a\times b}
  • {C\to C, c\mapsto c^b\quad (b\in\mathcal{O}(C))}

なので, CCC とは「終対象と(有限)積と冪が存在する圏」と言い換えることができます.

{C}トポス(topos)であるとは, {C} が CCC で, かつ以下の性質を満たす部分対象分類子(subobject classifier) {t : 1\to\mathit{\Omega}} が存在することを言います.

1. 任意の {f : A\to\mathit{\Omega}}{t : 1\to\mathit{\Omega}} とのファイバー積が存在する.
{\require{AMScd}\begin{CD}
B @>{h}>> 1 \\
@V{g}VV \circlearrowleft @VV{t}V \\
A @>>{f}> \mathit{\Omega}
\end{CD}}

2. 任意の単射 {m : A'\to A} に対して, 次図が引き戻しとなるような射 {\varphi : A\to\mathit{\Omega}} が一意に存在する.

例えば {\mathrm{Set}}{t : 1 = \{\ast\}\to\{\emptyset, 1\} = \mathit{\Omega}, t(\ast) = 1} とするとトポスになります.

層の定義

位相空間 {X} の開集合の全体 {\mathcal{O}(X)} は包含関係を順序として, 順序集合という意味で圏とみなせます. 函手 {F : \mathcal{O}(X)^\mathrm{op}\to\mathbf{Set}}前層(presheaf) と言います.

{X} の開集合 {U, V} に対して {V\subset U} のとき, これに対応する {\mathcal{O}(X)^\mathrm{op}} でのただ一つの射 {U\to V} に対して前層 {F} が定める {FU} から {FV} への(集合間の)写像が決まりますが, この写像による {t\in FU} の像を {t|_V} と表すことにします.

{U = \bigcup U_i} のとき
{p : \prod_i FU_i\to\prod_{i, j}F(U_i\cap U_j), q : \prod_j FU_j\to\prod_{i, j}F(U_i\cap U_j)}

{p\langle t_i\rangle = \langle t_i|_{U_i\cap U_j}\rangle, q\langle t_j\rangle = \langle t_j|_{U_i\cap U_j}\rangle\quad (t_i\in FU_i)}
で定め, {e : FU\to\prod_i FU_i}{e(t) = \langle t|_{U_i}\rangle} で定めます.

前層 {F}(sheaf)であるとは, 次図がイコライザの図式であることを言います.

トポスも層も直観主義論理と深い関係がありますが, その話は次回紹介する参考書などを読んでいただくことにいたしましょう.

楽しい圏論(その 13)

極限は対角函手の右随伴である

{F : J\to C} の極限を {\varprojlim F} で表します. これは対角函手 {\Delta : C\to C^J} から {C^J} の対象である {F} への普遍射でした. 従って全ての {F : J\to C} に対して極限が存在するならば函手 {\varprojlim : C^J\to C}{\Delta} の右随伴です.

双対的に全ての {F : J\to C} に対して余極限 {\varinjlim F} が存在すれば {\varinjlim : C^J\to C}{\Delta} の左随伴です. つまり
{\varinjlim\dashv\Delta\dashv\varprojlim}
という関係が成り立っています.

右随伴は極限を保つ

{F : J\to C}{C} の対象 {c} に対して函手 {C(c, F(-)) : J\to\mathbf{Set}} の極限を {\varprojlim C(c, F)} と表すことにします.

{\Delta c} から {F : J\to C} への自然変換全体 {\mathrm{Nat}(\Delta c, F)} は頂点 {c} から底 {F} へのとも言われ {\mathrm{Cone}(c, F)} とも表記されますが, {\varprojlim F} が存在すれば自然同型
{\mathrm{Cone}(c, F) = \mathrm{Nat}(\Delta c, F)\cong C(c, \varprojlim F)}
が成り立ちます. 一方で一点からなる集合 {\ast} を用いて
{\mathrm{Cone}(c, F) = \mathrm{Cone}(\ast, C(c, F(-)))}
が成り立ちます.

{\mathbf{Set}} の完備性(このことについては詳細は割愛します)から
{\begin{align}
 \mathbf{Set}(x, \varprojlim C(c, F))
  &\cong \mathrm{Cone}(x, C(c, F(-))) \\
  &\cong \mathbf{Set}(x, \mathrm{Cone}(\ast, C(c, F(-)))) \\
  &=       \mathbf{Set}(x, \mathrm{Cone}(c, F)) \\
  &\cong \mathbf{Set}(x, C(c, \varprojlim F)),
\end{align}}
すなわち {C(c, \varprojlim F)\cong \varprojlim C(c, F)} が成り立ちます.

これを使うと, {U : C\to D} がある函手 {G : D\to C} の右随伴ならば
{\begin{align}
 D(d, U(\varprojlim F))
  &\cong C(Gd, \varprojlim F) \\
  &\cong \varprojlim C(Gd, F) \\
  &\cong \varprojlim D(d, UF) \\
  &\cong D(d, \varprojlim UF)
\end{align}}
となるため, {U} は極限を保つことが分かります.

冪と極限

{C} は積を持つ圏とします. このとき任意の対象 {b} に対して函手 {(-)\times b : C\to C} が右随伴を持つとき, これを {(-)^b : C\to C} と書いて, {c^b}冪対象と言います.

つまり冪は右随伴なので極限を保ち, 例えば極限の特別な場合として積を考えれば {(c_1\times c_2)^b = {c_1}^b\times{c_2}^b,} 終対象 {1} を考えれば {1^b = 1} などが成り立っています.

楽しい圏論(その 12)

伏線回収回.

圏の積

「圏の積については後ほど一般的に定義します」と予告していましたので, ここで定義しておきます.

「全ての圏からなる圏」というものを考えることができます. 二つの圏 {C_1, C_2} の積とは, {C_1, C_2} をこの「全ての圏からなる圏」の対象と見たときの積です. このとき圏 {C} の対象 {c} および射 {f} は函手 {c : \mathbf{1}\to C, f : \mathbf{2}\to C} とみなすことができたのを思い出せば, 積の可換図式から {C_1\times C_2} の対象や射がいかなるものか見えてくると思います.


表現可能函手

函手 {F : C\to\mathbf{Set}} について {F\cong C(c,-)} となる対象 {c} があるとき {F}表現可能であると言います. このような対象 {c} (表現対象と言います)は同型を除いて一意であることは米田の補題からわかります.

続きを読む

楽しい圏論(その 10)

明けましておめでとうございます. 本年も当ブログをよろしくお願いいたします.
年の初めも圏論だよ !

積は極限である

函手 {F : J = \{1, 2\}\to C} を考えます({\{1, 2\}} は離散圏). 対角函手 {\Delta : C\to C^J} から {F} への普遍射を \langle l, \pi\rangle とします.

{t : \Delta c\to F} を自然変換とするとき, 次図が可換になるような射 {t' : c\to l} が存在します.

{c_i := Fi} と置いてこの状況を書き直すと

これは圏論で良く知られている積の図式じゃありませんか !

終対象は極限である

もっとシンプルな場合として {J = \mathbf{0}} (空圏)と考えると, ただ一つの函手 {F : \mathbf{0}\to C} の極限は終対象であることが分かります.

続きを読む

楽しい圏論(その 9)

普遍射についてもう少し

{U : C\to D} が左随伴 {F : D\to C} を持つとき, 双対的に {F} は右随伴 {U} を持つのでした.

自然同型 {C(Fd, c)\cong D(d, Uc)} において {1_{Uc}} に対応する射を {\varepsilon_c : FUc\to c} としましょう. このとき {g : Fd\to c} に対して, これに対応する {g' : d\to Uc} を取れば, これが {g = \varepsilon_c\circ Fg'} を満たすただ一つの射です.

このときの {\langle Uc, \varepsilon_c\rangle}{F} から {c} への普遍射です.

極限と余極限

{C, J} を圏とします. このとき対角函手 {\Delta : C\to C^J} を以下のように定義します.

  • {C} の対象 {c} に対して {\Delta c} は, {J} の任意の対象に {c} を, 任意の射に {1_c} を対応させる定数函手
  • {f : c\to c'} に対して {\Delta f} は, {J} の各対象 {i} における値が同じ {f} となる自然変換 {\Delta f : \Delta c\stackrel{\bullet}{\to}\Delta c'}

このとき, {F : J\to C} に対して {\Delta} から {F} への普遍射を極限(limit), {F} から {\Delta} への普遍射を余極限(colimit)と言います.

さて, 皆さんお気づきでしたでしょうか. 私はここまで圏の対象に関する積や余積などの諸概念を全く定義していませんでした.

しかし, 今定義した極限と余極限において {J} を特別な圏に取ることによって, これらの諸概念が実現できるのです. 次回以降はそれを見ていくことにします.

楽しい圏論(その 8)

年忘れ圏論大会 ! (ぁ

1 年半ぶりの記事の前に, ちょっとブログの今後の運用について.

連載記事に関しては, 今書いている圏論の話が一段落したら終了とします. 今後はサイトを作ってそちらでまとめていく予定です. 今後は単発のトピックのみ取り扱っていきます.

今回は普遍射についてお話します.

続きを読む