Red cat の数学よもやま話・新装開店

はてなダイアリー「Red cat の数学よもやま話」から徐々にこちらに移行していきます。

楽しい圏論(その 10)

明けましておめでとうございます. 本年も当ブログをよろしくお願いいたします.
年の初めも圏論だよ !

積は極限である

函手 {F : J = \{1, 2\}\to C} を考えます({\{1, 2\}} は離散圏). 対角函手 {\Delta : C\to C^J} から {F} への普遍射を \langle l, \pi\rangle とします.

{t : \Delta c\to F} を自然変換とするとき, 次図が可換になるような射 {t' : c\to l} が存在します.

{c_i := Fi} と置いてこの状況を書き直すと

これは圏論で良く知られている積の図式じゃありませんか !

終対象は極限である

もっとシンプルな場合として {J = \mathbf{0}} (空圏)と考えると, ただ一つの函手 {F : \mathbf{0}\to C} の極限は終対象であることが分かります.

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楽しい圏論(その 9)

普遍射についてもう少し

{U : C\to D} が左随伴 {F : D\to C} を持つとき, 双対的に {F} は右随伴 {U} を持つのでした.

自然同型 {C(Fd, c)\cong D(d, Uc)} において {1_{Uc}} に対応する射を {\varepsilon_c : FUc\to c} としましょう. このとき {g : Fd\to c} に対して, これに対応する {g' : d\to Uc} を取れば, これが {g = \varepsilon_c\circ Fg'} を満たすただ一つの射です.

このときの {\langle Uc, \varepsilon_c\rangle}{F} から {c} への普遍射です.

極限と余極限

{C, J} を圏とします. このとき対角函手 {\Delta : C\to C^J} を以下のように定義します.

  • {C} の対象 {c} に対して {\Delta c} は, {J} の任意の対象に {c} を, 任意の射に {1_c} を対応させる定数函手
  • {f : c\to c'} に対して {\Delta f} は, {J} の各対象 {i} における値が同じ {f} となる自然変換 {\Delta f : \Delta c\stackrel{\bullet}{\to}\Delta c'}

このとき, {F : J\to C} に対して {\Delta} から {F} への普遍射を極限(limit), {F} から {\Delta} への普遍射を余極限(colimit)と言います.

さて, 皆さんお気づきでしたでしょうか. 私はここまで圏の対象に関する積や余積などの諸概念を全く定義していませんでした.

しかし, 今定義した極限と余極限において {J} を特別な圏に取ることによって, これらの諸概念が実現できるのです. 次回以降はそれを見ていくことにします.

楽しい圏論(その 8)

年忘れ圏論大会 ! (ぁ

1 年半ぶりの記事の前に, ちょっとブログの今後の運用について.

連載記事に関しては, 今書いている圏論の話が一段落したら終了とします. 今後はサイトを作ってそちらでまとめていく予定です. 今後は単発のトピックのみ取り扱っていきます.

今回は普遍射についてお話します.

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楽しい圏論(その 7)

ある実例

{R}可換環とします. 集合 {X} が与えられたとき, {X} の元を基底とする自由 {R}-加群が作れます. これを {FX} で表すことにします. すると函手 {F : \mathbf{Set} \to R\text{-}\mathbf{Mod}} が作れます.

一方, {R}-加群 {M} に対して, {R}-加群であることを忘れてただの集合とみなす函手*1 {U : R\text{-}\mathbf{Mod} \to \mathbf{Set}} が作れます. 射も {R}-準同型であることを忘れて単に集合間の写像とみなします.

このとき, 以下の関係が成り立ちます.
{\theta_{X, M} : \hom(FX, M) \ni h \stackrel{\cong}{\longmapsto} h|_X \in \hom(X, UM)}
つまり, {X} を基底の集合とする自由 {R}-加群から任意の {R}-加群への {R}-準同型は, 基底の像によって完全に決定されるということです.

さらに, 以下のような自然性が成り立ちます. 第一に, 写像 {f : X \to Y} があるとき, {h \in \hom(FY, M)} に対して
{\begin{align}
(\hom(f, UM) \circ \theta_{Y, M})(h)
  &= \hom(f, UM)(h_Y) \\
  &= h_Y \circ f, \\
(\theta_{X, M} \circ \hom(Ff, M))(h)
  &= \theta_{X, M}(h \circ Ff) \\
  &= (h \circ Ff)_X \\
  &= h_Y \circ f.
\end{align}}
{\require{AMScd}\begin{CD}
\hom(FY, M) @>{\hom(Ff, M)}>> \hom(FX, M) \\
@V{\theta_{Y, M}}VV \circlearrowleft @VV{\theta_{X, M}}V \\
\hom(Y, UM) @>>{\hom(f, UM)}> \hom(X, UM).
\end{CD}}

第二に, {R}-準同型 {g : M \to N} があるとき, {h' \in \hom(FX, M)} に対して
{\begin{align}
(\hom(X, Ug) \circ \theta_{X, M})(h')
  &= \hom(X, Ug)(h'_X) \\
  &= Ug \circ h'_X \\
  &= (g \circ h')_X, \\
(\theta_{X, N} \circ \hom(FX, g))(h')
  &= \theta_{X, N}(g \circ h') \\
  &= (g \circ h')_X.
\end{align}}
{\require{AMScd}\begin{CD}
\hom(FX, M) @>{\hom(FX, g)}>> \hom(FX, N) \\
@V{\theta_{X, M}}VV \circlearrowleft @VV{\theta_{X, N}}V \\
\hom(X, UM) @>>{\hom(X, Ug)}> \hom(X, UN).
\end{CD}}

今回からしばらくの間, このような現象を一般化した概念である「随伴函手」について書いていきます.

随伴函手

{C}{D} の間に函手 {F : D \to C}{U : C \to D} があって, {c}{d} において自然な同型
{C(Fd, c) \cong D(d, Uc)}
が存在するとき, {F}{U}左随伴函手(left adjoint functor)であると言います. また, このとき同時に, {U}{F}右随伴函手(right adjoint functor)であると言います. 記号では {F \dashv U} と書いている書籍もあります. 図にすると以下のようになります.

函手 {U : C \to D} に対して函手 {F : D \to C}{U} の左随伴函手であるようなものが存在するとき, {U} は左随伴函手を持つ, という表現をします. 右随伴函手を持つ, という表現も同様です.

定義において双対を取ると {C(c, F^\mathrm{op}d) \cong D(U^\mathrm{op}c, d)} なので, {U} が左随伴函手を持つことと {U^\mathrm{op}} が右随伴函手を持つこととは同値です. この意味で, 左随伴函手と右随伴函手は互いに双対の概念になっています.

*1:忘却函手(forgetful functor)と言います.

楽しい圏論(その 6)

今回はいよいよ米田の補題を証明しますが, 少しだけ準備をします.

双対圏(再)

以前, 圏 {C} の双対圏 {C^\mathrm{op}} を定義しましたが, 圏 {C} における言明 {\mathrm{\Sigma}} は, 双対圏に写ることによって双対言明 {\mathrm{\Sigma}^*} に書き換えられます. {(C^{\mathrm{op}})^{\mathrm{op}} = C} であることを考えれば, 圏 {C^{\mathrm{op}}} における言明 {\mathrm{\Sigma}}{C} においては双対言明 {\mathrm{\Sigma}^*} に書き換えられることになります.

以前, 束論の話の中で束 {L} は圏とみなせる, という話をしましたが, {L} が束ならば {L^{\mathrm{op}}} も束なので, 一般の束においてある命題が成り立てば, 常にその双対命題も成り立つ, ということが圏論からもわかる, という理屈になります.

なお, 函手 {F : C \to D} があるとき, {F^{\mathrm{op}}(c) = Fc, F^{\mathrm{op}}(f^{\mathrm{op}}) = (Ff)^{\mathrm{op}}} とすれば函手 {F^{\mathrm{op}} : C^{\mathrm{op}} \to D^{\mathrm{op}}} が得られます.

米田の補題の証明

ステートメントは前回紹介しましたが, ここでは上記の双対圏の話を踏まえて以下の形で証明します.

米田の補題 {C} は局所的に小さな圏とする.
{F : C \to \mathbf{Set}} を函手とするとき自然同型
{y : \mathrm{Nat}(Yc, F) \cong Fc}
が存在する. ただし {Y : C^{\mathrm{op}} \to \mathbf{Set}^C} は米田函手
{Yc = C(c, -) : C \to \mathbf{Set}.}

以下, 証明です.

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楽しい圏論(その 5)

これまで, {\mathcal{M}(C)} はクラスであると仮定してきました*1が, 実際にはより大きな圏も扱うことが多いです. したがって, 今後は特に断りがなければそのような圏も扱っているものと考えてください. また, そのような圏を扱っている場合でも, 集合論でよく使う記号({\in} など)を濫用します.

局所的に小さな圏, 小さな圏

以下, 頻繁に使う用語の定義です.

  • {C}局所的に小さな圏(locally small category) {\stackrel{\mathrm{def}}{\iff}} 任意の {a, b \in \mathcal{O}(C)} に対して {C(a, b)} が(小さな)集合.
  • {C}小さな圏(small category) {\stackrel{\mathrm{def}}{\iff}} {C} は局所的に小さな圏でかつ {\mathcal{O}(C)} が(小さな)集合.

圏の積と双函手

二つの圏 {C_1, C_2} があったとき, 以下のようにして新しい圏 {C_1 \times C_2} が構成できます*2.

  • {\mathcal{O}(C_1 \times C_2) = \{\langle a_1, a_2 \rangle | a_i \in \mathcal{O}(C_i)\},}
  • {f_i \in C_i(a_i, b_i)} のとき {\langle f_1, f_2 \rangle : \langle a_1, a_2 \rangle \to \langle b_1, b_2 \rangle,}
  • {\langle g_1, g_2 \rangle \langle f_1, f_2 \rangle = \langle g_1 f_1, g_2 f_2 \rangle.}

特殊な函手 {P_i : C_1 \times C_2 \to C_i} を以下のように定義します.

{a_i \in \mathcal{O}(C_i), f_i : a_i \to b_i} に対して {P_i\langle a_1, a_2 \rangle = a_i, P_i\langle f_1, f_2 \rangle = f_i.}

この圏の積は, 以下のような普遍性を持ちます.

函手 {F_i : D \to C_i} があったとき, 函手 {G : D \to C_1 \times C_2}{P_i G = F_i} を満たすものが存在します. 実際 {Gd = \langle F_1 d, F_2 d \rangle \ (d \in \mathcal{O}(D)), Gh = \langle F_1 h, F_2 h \rangle \ (h \in \mathcal{M}(D))} と置けばよいでしょう.

さて, 函手 {F : C_1 \times C_2 \to D} を特に双函手(bifunctor)と言います. 特に重要なのは, 局所的に小さな圏 {C} に対する hom 函手
{C(-, -) : C^{\mathrm{op}} \times C \to \mathbf{Set}}
でしょう*3. {f : a_1 \gets a_2, g : b_1 \to b_2} に対して
{C(f, g) : C(a_1, b_1) \ni h \mapsto ghf \in C(a_2, b_2)}
とすれば, これが実際に函手になっていることを見るのは容易でしょう.

さて, この hom 函手においてある {c \in \mathcal{O}(C)} を固定することで, 函手
{Y_C(c) = C(-, c) : C^{\mathrm{op}} \to \mathbf{Set}}
が得られます. つまり {Y_C}{C} から {\mathbf{Set}^{C^{\mathrm{op}}}} への函手を与えていることになります. これを米田函手(Yoneda functor)と言います. 同様に
{Y^C(c) = C(c, -) : C \to \mathbf{Set}}
から得られる函手 {Y^C : C^{\mathrm{op}} \to \mathbf{Set}^C}
もやはり米田函手と言います.

充満函手, 忠実函手

{F : C \to D} を函手とするとき, {F}函数 {C(a, b) \to D(Fa, Fb)} を導きます. 以下の用語を定義します.

  • {F}充満(full) {\stackrel{\mathrm{def}}{\iff}} 任意の {g \in D(Fa, Fb)} に対して {g = Ff} となる {f \in C(a, b)} が存在する.
  • {F}忠実(faithful) {\stackrel{\mathrm{def}}{\iff}} {f_1, f_2 \in C(a, b)} に対して {Ff_1 = Ff_2} ならば {f_1 = f_2.}

米田の補題

証明は次回行います. 二つの函手 {F, G : C \to D} に対して, {F} から {G} への自然変換の全体 {D^C(F, G)}{\mathrm{Nat}(F, G)} と書くことにします.

米田の補題 {C} を局所的に小さな圏とする.
{F : C^{\mathrm{op}} \to \mathbf{Set}} を函手とするとき自然同型
{\mathrm{Nat}(Y_C(c), F) \cong Fc }
が存在する. 特に {F = Y_C(c') = C(-, c')} に取れば
{\mathrm{Nat}(C(-, c), C(-, c')) = \mathrm{Nat}(Y_C(c), Y_C(c')) \cong Y_C(c')(c) = C(c, c'),}
すなわち米田函手は充満かつ忠実である.

特に米田の補題の後半は良く使います. すなわち任意の {x \in \mathcal{O}(C)} について自然同型 {C(x, c) \cong C(x, c')} が存在すれば, 対象として {c \cong c'} が成り立つということです.

ここに, 二つの対象 {c, c' \in \mathcal{O}(C)}同型(isomorphic)であるとは, 二つの射 {f : c \to c', g : c' \to c} が存在して {gf = 1_c, fg = 1_{c'}} を満たすことを言い, このような {f} (や {g}) を同型射(isomorphism)と言います.

*1:その部分クラスと同一視できる {\mathcal{O}(C)} ももちろんクラスになる.

*2:より普遍的な構成方法は後ほど紹介します.

*3:{\mathbf{Set}} は全ての小さな集合と写像の圏です.