楽しい圏論(その 11)
ファイバー積
極限の特殊ケースをもう一つ.
という圏を考えます. これは見た目の通り, 対象が の三つで, (恒等射以外の)射は の二つだけ定義されている圏です. このとき函手 の極限は次図のようになり, ファイバー積 と言われているものです.
楽しい圏論(その 9)
普遍射についてもう少し
が左随伴 を持つとき, 双対的に は右随伴 を持つのでした.
自然同型 において に対応する射を としましょう. このとき に対して, これに対応する を取れば, これが を満たすただ一つの射です.
このときの が から への普遍射です.
極限と余極限
を圏とします. このとき対角函手 を以下のように定義します.
- の対象 に対して は, の任意の対象に を, 任意の射に を対応させる定数函手
- 射 に対して は, の各対象 における値が同じ となる自然変換
このとき, に対して から への普遍射を極限(limit), から への普遍射を余極限(colimit)と言います.
さて, 皆さんお気づきでしたでしょうか. 私はここまで圏の対象に関する積や余積などの諸概念を全く定義していませんでした.
しかし, 今定義した極限と余極限において を特別な圏に取ることによって, これらの諸概念が実現できるのです. 次回以降はそれを見ていくことにします.
楽しい圏論(その 7)
ある実例
を可換環とします. 集合 が与えられたとき, の元を基底とする自由 -加群が作れます. これを で表すことにします. すると函手 が作れます.
一方, -加群 に対して, -加群であることを忘れてただの集合とみなす函手*1 が作れます. 射も -準同型であることを忘れて単に集合間の写像とみなします.
このとき, 以下の関係が成り立ちます.
つまり, を基底の集合とする自由 -加群から任意の -加群への -準同型は, 基底の像によって完全に決定されるということです.
さらに, 以下のような自然性が成り立ちます. 第一に, 写像 があるとき, に対して
第二に, -準同型 があるとき, に対して
今回からしばらくの間, このような現象を一般化した概念である「随伴函手」について書いていきます.
随伴函手
圏 と の間に函手 と があって, と において自然な同型
が存在するとき, は の左随伴函手(left adjoint functor)であると言います. また, このとき同時に, は の右随伴函手(right adjoint functor)であると言います. 記号では と書いている書籍もあります. 図にすると以下のようになります.
函手 に対して函手 で の左随伴函手であるようなものが存在するとき, は左随伴函手を持つ, という表現をします. 右随伴函手を持つ, という表現も同様です.
定義において双対を取ると なので, が左随伴函手を持つことと が右随伴函手を持つこととは同値です. この意味で, 左随伴函手と右随伴函手は互いに双対の概念になっています.
*1:忘却函手(forgetful functor)と言います.
楽しい圏論(その 6)
今回はいよいよ米田の補題を証明しますが, 少しだけ準備をします.
双対圏(再)
以前, 圏 の双対圏 を定義しましたが, 圏 における言明 は, 双対圏に写ることによって双対言明 に書き換えられます. であることを考えれば, 圏 における言明 が においては双対言明 に書き換えられることになります.
以前, 束論の話の中で束 は圏とみなせる, という話をしましたが, が束ならば も束なので, 一般の束においてある命題が成り立てば, 常にその双対命題も成り立つ, ということが圏論からもわかる, という理屈になります.
なお, 函手 があるとき, とすれば函手 が得られます.
米田の補題の証明
ステートメントは前回紹介しましたが, ここでは上記の双対圏の話を踏まえて以下の形で証明します.
米田の補題 は局所的に小さな圏とする.
を函手とするとき自然同型
が存在する. ただし は米田函手
以下, 証明です.
楽しい圏論(その 5)
これまで, はクラスであると仮定してきました*1が, 実際にはより大きな圏も扱うことが多いです. したがって, 今後は特に断りがなければそのような圏も扱っているものと考えてください. また, そのような圏を扱っている場合でも, 集合論でよく使う記号( など)を濫用します.
局所的に小さな圏, 小さな圏
以下, 頻繁に使う用語の定義です.
- が局所的に小さな圏(locally small category) 任意の に対して が(小さな)集合.
- が小さな圏(small category) は局所的に小さな圏でかつ が(小さな)集合.
圏の積と双函手
二つの圏 があったとき, 以下のようにして新しい圏 が構成できます*2.
- のとき
特殊な函手 を以下のように定義します.
に対して
この圏の積は, 以下のような普遍性を持ちます.
函手 があったとき, 函手 で を満たすものが存在します. 実際 と置けばよいでしょう.
さて, 函手 を特に双函手(bifunctor)と言います. 特に重要なのは, 局所的に小さな圏 に対する hom 函手
でしょう*3. に対して
とすれば, これが実際に函手になっていることを見るのは容易でしょう.
さて, この hom 函手においてある を固定することで, 函手
が得られます. つまり は から への函手を与えていることになります. これを米田函手(Yoneda functor)と言います. 同様に
から得られる函手
もやはり米田函手と言います.