Red cat の数学よもやま話・新装開店

はてなダイアリー「Red cat の数学よもやま話」から徐々にこちらに移行していきます。

数学・基礎論

楽しい圏論(その 7)

ある実例 を可換環とします. 集合 が与えられたとき, の元を基底とする自由 -加群が作れます. これを で表すことにします. すると函手 が作れます.一方, -加群 に対して, -加群であることを忘れてただの集合とみなす函手*1 が作れます. 射も -準同型であるこ…

楽しい圏論(その 6)

今回はいよいよ米田の補題を証明しますが, 少しだけ準備をします. 双対圏(再) 以前, 圏 の双対圏 を定義しましたが, 圏 における言明 は, 双対圏に写ることによって双対言明 に書き換えられます. であることを考えれば, 圏 における言明 が においては双対言…

楽しい圏論(その 5)

これまで, はクラスであると仮定してきました*1が, 実際にはより大きな圏も扱うことが多いです. したがって, 今後は特に断りがなければそのような圏も扱っているものと考えてください. また, そのような圏を扱っている場合でも, 集合論でよく使う記号( など)…

楽しい圏論(その 4)

今後, などは単に と書きます. また, 射や函手の合成記号は省いて などと書きます. 自然変換の垂直合成と函手圏 圏 から圏 への函手 と自然変換 が与えられたとき, 垂直合成(vertical composition) を で定義します.これが から への自然変換になっているこ…

楽しい圏論(その 3)

反変函手と双対圏 前回は函手を定義しましたが, もう一つ, 反変函手(contravariant functor)と言われるものがあります. が の恒等射ならば は の恒等射である. において が定義されているならば において が定義されており, である. 一つ目は通常の函手(共変…

楽しい圏論(その 2)

一ヶ月ほど間が空いてしまいましたが, ようやくブログを書ける状態になってきたので再開します. 函手の定義 を二つの圏(の射のクラス)とします. クラス関数 は, 以下の二つの公理を満たすとき, 函手(functor)であると言います. が の恒等射ならば は の恒等…

楽しい圏論(その 1)

今回から, 圏論について述べていこうと思います. Heyting 代数の話の中でも, 一部で圏論の一般論を適用してきましたが, それらを改めて確認する意味も込めて, 今回は 圏の定義 函手・自然変換 米田の補題 随伴函手 余極限と極限 を見ていきたいと思います. …

直観主義論理の入り口~Heyting 代数~(その 10・最終回)

完備 Heyting 代数 Heyting 代数は束として完備であるとき, 完備 Heyting 代数(complete Heyting algebra)と言います. 良く cHa などと略されます.同様に Boole 代数が束として完備であるとき, 完備 Boole 代数(complete Boole algebra, cBa)と言います.既に…

直観主義論理の入り口~Heyting 代数~(その 9)

前回に引き続き Heyting 代数の性質を見ていきます.最小元 を持つ Heyting 代数 において と定義し, これを の擬補元と言うのでした. 今回は擬補元の性質を中心に見ていきます.1. ならば 2. の定義より明らか.3. 2. より 4. 3. で を で置き換えると 一方で …

直観主義論理の入り口~Heyting 代数~(その 8)

今回は Heyting 代数の性質についてもう少し詳し見ていきます. 以下 は Heyting 代数とし, とします.1. より明らか.2. ならば より.3. 函手 が極限を保つことから従う.4. と から により よって 分配圏の性質としても導くことができる. 5. と から従う.6. と…

直観主義論理の入り口~Heyting 代数~(その 7)

今回は Boole 代数に関する大事な性質について見ていきます. Boole 代数は Heyting 代数である 補題 (証明) 定理 Boole 代数は Heyting 代数である.(証明) と補題により Boole 代数ではない Heyting 代数が存在する 補題 を Heyting 代数とする. もし に対し…

直観主義論理の入り口~Heyting 代数~(その 6)

前回まで束に関する一般的な性質を見てきましたが, 今回からいよいよ Heyting 代数の話をします. Heyting 代数の定義 は有界束とします. このとき が Heyting 代数であるとは, が圏*1として冪を持つことを言います. すなわち函手 が右随伴函手 を持つことを…

直観主義論理の入り口~Heyting 代数~(その 5)

ある方から証明を教えていただくことができた(正確には証明が載っている書籍を紹介していただいた)ので, 前回あいまいにしていた部分を消化しておきます.定理. が分配束でなければ を満たす が存在する.(証明) 1. がモジュラー束でないとき このとき かつ を…

直観主義論理の入り口~Heyting 代数~(その 4)

束についてもう少し 一般の束に関する性質をもう少し見ていきましょう. が成り立ちます(単調性).これは と からわかります.また … (*) が成り立ちます. これは定義に従って地道に示せますので, 証明は省略します.(*) 式から が導かれます. このことと単調性…

直観主義論理の入り口~Heyting 代数~(その 3)

圏としての束 もう少し束の話を続けたいのですが, 圏論の知識を持っているといろいろと楽なことが多いので, 束を圏とみなす方法を紹介します.一般に束 はそれ自体半順序集合です. これを圏とみなすためには以下のようにします. 圏 の対象は の元. 圏 の対象 …

直観主義論理の入り口~Heyting 代数~(その 2)

有界束と完備束 有界束 束 は自然な方法で半順序集合とみなせることは前回分かりました. そうなると最小元や最大元は存在するのか, は自然な興味の対象になりますし, 当然ながら常に存在するとは限りません.最小元と最大元がともに存在する束を有界束と言い…

直観主義論理の入り口~Heyting 代数~(その 1)

半年ぶりの記事です. 今回は, 数回にわたって Heyting 代数について書きたいと思います. 半順序集合と束 半順序集合から束 を半順序集合とします. すなわち について (反射律)*1 (反対称律) (推移律) が成り立つものとします. について を満たす が存在する…