Red cat の数学よもやま話・新装開店

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楽しい圏論(その 17)

圏同型と圏同値

二つの圏 {C}{D} について, 函手 {F : C\to D}{G : D\to C}{GF = 1_C, FG = 1_D} となるものがあるとき {C}{D}圏同型であると言いますが, 圏同型はかなり強い条件です. そこで, これを少しゆるめて
{GF\cong 1_C : C\to C, FG\cong 1_D : D\to D}
となるような自然同型があるとき, {C}{D}圏同値であると言います.

条件を緩めることは圏論では重要で, 例えば bicategory(双圏, weak 2-category)と (strict) 2-category は本質的に違うものですが, biequivalence という概念を使うと両者を「だいたい」同じものとみなせるのです. biequivalence の定義の中に圏同値が現れるのですがここを圏同型にすることはできません. 条件を緩めることで初めてこの有益な情報は得られるのです.

ただ, それを詳しく書くと(ある程度の予備知識があったとしても) 60 ページほどの PDF になってしまいますのでここでは割愛します.

普遍自然変換

最後のおまけ(?)に普遍自然変換の話を. {\mathbf{2}} は二つの対象 {0 , 1} と恒等射 {\mathrm{id}_0, \mathrm{id}_1} と恒等射でないただ一つの射 {\downarrow : 0\to 1} をもつ圏です.

{C} に対して特別な函手 {T_0, T_1 : C\to C\times\mathbf{2}}
{T_i c := \langle c, i\rangle, T_i f := \langle f, \mathrm{id}_i\rangle : \langle c, i\rangle\to \langle c', i\rangle(i = 0, 1, f : c\to c')}
と定義します. このとき自然変換 {\mu : T_0\stackrel{\bullet}{\to} T_1}
{\mu_c := \langle\mathrm{id}_c, \downarrow\rangle : \langle c, 0\rangle\to \langle c, 1\rangle}
で作ることができます.

任意の函手 {S, T : C\to D} と自然変換 {\tau : S\stackrel{\bullet}{\to} T} に対して双函手 {F : C\times\mathbf{2}\to D}{F\star\mu = \tau} となるものがただ一つ存在します. このような {F}
{F\langle c, 0\rangle = Sc, F\langle c, 1\rangle = Tc,}
{F\langle f, \mathrm{id}_0\rangle = Sf, F\langle f, \mathrm{id}_1\rangle = Tf, F\langle f, \downarrow\rangle = Tf\circ\tau_c = \tau_{c'}\circ Sf}
で与えられます.